【Story】Vol.7 とある歌舞伎町での日録

文_AAAMYYY
2020.04.10

毎日多くの人が行き交う街、歌舞伎町。
あなたはこの街に、どんな思いを抱いていますか?

毎月更新のこのコラムでは、歌舞伎町になじみのある人物に街への愛を語ってもらいます。

第7回目は、シンガーソングライターであり、トラックメイカーでもあり、3ピースバンド“Tempalay”のコーラス・シンセサイザーとしても活躍しているAAAMYYY(エイミー)さん。

さまざまな記憶の断片が宿る、この街の忘れられない風景や人々とは?

レモンサワーと、路地裏の料理店。味の思い出せない火鍋屋さん

ゴールデン街の隅っこに小さなレモンサワー屋さんがあって、仲の良い友人達と二階の座敷に座って会話に花を咲かせていた。縁側でたばこを吸いながら、タイムスリップしたかのような路面を見下ろした。通りを歩く外国人、笑っている人、無表情に携帯を覗き込んでいる人、皆んなどこから何をしにここへ集まってくるのだろう? ぼうっと眺めているだけなのに、思ったよりもレモンサワーの酔いが回るのが早い。千鳥足で階段を降りて、カウンターの前に溢れる人の間を抜け、夜のゴールデン街を再び歩き出した。

Photo by 阪元裕吾

区役所通りの外れにある酒屋で缶ビールを買って、迷路のような狭い路地裏に佇む中国料理店に入る。お酒を持ち込めることと、ゲテ物が食べられることで知られているその飲食店で、国籍のわからない店員さんに料理を注文し、持ち込みのビールで乾杯した。私の目の前に座る親友はバングラデシュ人で、ベルリンのゲットー*な文化だとか、Liquidrom(リキッドロム)*やBerghain(ベルクハイン)の話題で持ちきりだ。隣ではサラリーマンたちが空芯菜炒めをつつきながら昆虫を注文しようと盛り上がっている。皆んな楽しそうだな、本当に平和だな。と、私は旨味の染み込んだハマグリを一口食べた。

*ゲットー = ヨーロッパ諸都市内でユダヤ人が強制的に住まわされた居住地区。
*リキッドロム = ベルリンにある最先端のスパ&サウナ。
*ベルクハイン = 旧東ドイツの発電所を改造したクラブ。テクノの殿堂として知られる。

今にも崩れ落ちそうな階段を登った先に、プレハブのような造りの火鍋屋さんがあって、そこで料理を囲んで馬鹿みたいに紹興酒を回し飲みしながら騒いだことがある。お店の壁紙はタバコや何やらで変色していて、テーブルも椅子もガタガタ。お料理もすごく美味しいわけではないけれど、なんだかそれも含めてその空間が好きだった。お店を切り盛りするおじちゃんが親切で、底無しに明るい店員のおばさんとの息が合っていないのも妙に落ち着いた。みんなで飲み交わす楽しい夜。何度か行っているはずなのに、肝心の火鍋の味は、どうにも思い出せない。

バッティングセンターでの撮影会、缶チューハイとゴジラ

Photo by Zachary Hertzman

歌舞伎町を抜ける手前にあるバッティングセンターに、カナダから遊びに来ていたフォトグラファーの友人と、撮影を兼ねて遊びに行ったことがある。入り口の番台のようなスペースでテレビと睨めっこしていた受付のおじさんは、カメラを持ったユダヤ人の友人を気にもとめていない様子だ。素晴らしい日差しが差し込む左利き用の場内で、夢中になってシャッターを切る友人。いつのまにか、受付のおじさんが怒って外に出てきた。

「怪我をしたら危ないでしょ、写真は禁止!」

身振り手振りで友人に直接伝えたおじさんに、私はちょっと感動した。というのも、一日中私たちは色んなスポットを撮りまわり、行く先々で何度も怒られていたのだが、直接彼に言葉を伝えたのはおじさんが初めてだった。それに真っ先に怪我の心配をしてくれていたし、ぶっきらぼうだけど、優しいおじさんなんだなと思った。帰りにふと受付のブースに目をやった。おじさんが終始睨めっこしていたのは、場内の監視カメラだった。

バッティングセンターにて、友人が撮影したショット。Photo by Zachary Hertzman

ライブハウスが点在する歌舞伎町。サーキットフェスを終え、意気投合したミュージシャンたちと路上でだべりながら缶チューハイを飲んでいた。見渡せば、ゴジラビル前の広場はヘベレケな若者やサラリーマンで溢れていた。突然陽気な若いスーツの二人組に話しかけられ、『Youは何しに日本へ?』という番組の制作担当をしているらしいことを聞き、彼らに「番組大好きです」と伝えられたことに我々は気前を良くした。缶チューハイを飲み干し、レイトショーで映画『ジュラシック・ワールド』を4Dで観た。椅子が動き、音がサラウンドで、手を伸ばせば直ぐそこまで迫る恐竜。思わず声をあげる我々。あの夜、滝に飛び込んで、陸に這い上がったときに漂ってきた土の香りを、今でもゴジラを見上げるたびに思い出す。

歌舞伎町の「カコ」と「ミライ」

Photo by Zachary Hertzman

みらいちゃんと出会ったのは、区役所通りの近くにあるキャバクラだった。生活するのにも困るほど貧乏だった大学生の頃、何度か日払いの体験入店(以下・体入)でその場をしのいだことがある。私の源氏名はカコで、みらいちゃんは私のような体入や新人の女の子たちに色々教えてくれた。「カコ」と「ミライ」だと周りにからかわれながら、お酒を作り、お客の隣に座り、タバコに火をつけ、ずっと気を配りながら楽しくおしゃべりするのが、私の性に合わなかったのは言うまでもない。一方でみらいちゃんは、本当に素晴らしかった。手捌き気配りが完全に身体から滲み出ていたし、屈託のない笑顔に私もお客も感服で、私はおとなしく歌舞伎町をすぐに去った。後日、たまたまみらいちゃんとお茶をする機会があったとき、初めて彼女を太陽の下で見た。小柄で華奢で、完璧なギャルメイクとストレートヘアでがっちり身を固める彼女は、終始携帯の画面を見ながらも、私の話にしっかりと相槌を打ちながら笑ってくれていた。私はなんだかせつなくなりながら、今では別の「カコちゃん」を教えているというみらいちゃんの話に耳を打ち、氷が溶けて、味の薄くなったカフェオレをすすった。

AAAMYYY(エイミー)

長野出身のシンガー・ソングライター/トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽制作をスタートし、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2018年6月、Tempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリースした。

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【Story】Vol.7 とある歌舞伎町での日録

text:AAAMYYY
illustration:いえだゆきな
photo:Zachary Hertzman,阪元裕吾

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