【Story】Vol.9 「夜を感じる一夜の泡」根本宗子

文_根本宗子
2020.06.30

毎日多くの人が行き交う街、歌舞伎町。
あなたはこの街に、どんな思いを抱いていますか?

毎月更新のこのコラムでは、歌舞伎町になじみのある人物に街への愛を語ってもらいます。

第9回目は、劇団『月刊「根本宗子」』を主宰し、劇作家として外部への脚本提供や演出も手掛けるなど、幅広く活動をつづける根本宗子さん。

舞台公演やイベント等でよく通っていたという彼女の記憶に宿る、歌舞伎町の夜の姿とは?

夜を感じられる場所

皆さんは夜を感じたい時に何をしますか? どこへ行きますか?

「そもそも夜を感じたい」をいう感覚って、誰しもが持っているものなのでしょうか? 私は、何かにつけてその時の感情や感覚を強く自分の中に残しておこうとする性質があるので、ふと「夜を感じたい」と思い、夜を感じることのできる場所に散歩に行ったり、食事に行ったりします。そんな「夜を感じられる場所」の代表として歌舞伎町があります。

歌舞伎町って一日が二十四時間以上あるように思うことないですか?

旅行に行った時に想像してみていただけますでしょうか。

旅先では、なるべく時間の許す限りその土地を楽しもうとする欲が自分の中に生まれてきますよね?

普段より、夜遅くまで起きて時間を使おうとするのが旅行中の思考回路な気が私はしています。

そのため、夜の街を散歩したり、夜の繁華街に行ったりして、地元にいるよりも夜の思い出が増えるし、時間が長く感じられる気がするんです。

歌舞伎町はどこか異国のような雰囲気があります。

外国人向けの観光誌に歌舞伎町が年々大きく取り上げられるようになっていることから、日本人だけではなく、様々な国の人がいることや、店が閉まり静かになった街なのに同じ新宿でも一歩歌舞伎町に入ると、キラキラとネオンが輝き、まるで時差があるような感覚になります。

「眠らない街」といったような表現をよくテレビや雑誌で目にしますが、正しくは「眠る時間の違う街」といった感じでしょうか。

そんな歌舞伎町に一人で行くと、誰も私のことを知らない異国に来たような感覚になるのです。空が暗い時間にこの感覚を手に入れられると、「夜を感じる」ことができるのです。

何となく伝わっているでしょうか?

私は「夜を感じる」ために歌舞伎町を散歩しているのです。

はじけ飛んでいくような夜の体験

歌舞伎町に割と頻繁に行くようになったのは20歳を過ぎたころからです。

新宿にある劇場で舞台公演をやることが当時多かったこともあり、何となく周辺をうろつくようになったので、特に初めは目当ての店があったり、目的があったりということではなく、公演後に物思いに耽って歩いていたのですが、気がつくと馴染みの中華屋ができたり、深夜に映画を観に行ったり、深夜のドンキホーテで購買意欲を掻き立てられて特に使いもしないものを気がつくと1万円分くらい買っていたり、すっかり馴染みの場所となっていました。

その後ホストクラブを題材にした舞台を作る際、取材のため3ヶ月間、週2ペースでホストクラブに通い、ホストの沼から抜け出せない人と知り合って話を聞いたり、毎月の自分のイベントをロフトプラスワンでやるようにもなりました。

友人ら4人で深夜に歌舞伎町で映画『La La Land』をレイトショーで鑑賞し、明け方パーティーに繰り出したい気分となった我々は、朝までやっている歌舞伎町のドレスショップで、絶対に今後二度と着ないようなドレスやティアラを購入したこともあります。劇中エマ・ストーン演じるミアが友人達とパーティーへと繰り出す時に歌う『Someone In The Crowd』というナンバーを歌いながら人のいない明け方の歌舞伎町を歩き踊り、「うちら最高」状態になり、そのテンションのまま歌舞伎町を一歩外に出て新宿のルノアールに入った瞬間、そこには朝刊を読むおじさま達がモーニングをつついていて、一気に現実に引き戻され

「え?うちらなんでドレスなんか買ってはしゃいでたんだろう?」

という気持ちになり、我々も静かに紅茶をすすり、帰宅したというのもいい思い出の一つです。

夜が泡のように弾けて一瞬で消えていくことを実感した瞬間でした。

楽しい時って泡のように弾けて消えませんか?

楽しければ楽しいほど、その弾けっぷりは凄まじい気がして。

作れなかった幻の演劇

今ではなくなってしまいましたが、私は風林会館の中にあった「ニュージャパン」というイベントホールを使って演劇を作ってみたかったんです。

これは結構な私の中の心残りで、「何でも思い立ったらやる」と決めて生きているのであまり心残りが多い方ではないのですが、ここには間に合うことができなかった。

ずっとあることが当たり前だったんですよね、きっと自分の中で。クローズするなんて思ってなかった。

いつでもあるなんて保証は何をとってもないはずなのに、ずっとなくならない場所だと思い込んでいたんです。

今でも風林会館を見ると、ニュージャパンへの想いがぐわぁっと込み上げてきます。

ニュージャパンで演劇、ライブ、イベントなどをされた方は、それはそれはすごい勢いで弾ける泡のような一夜の素敵な思い出をお持ちのことでしょう。

私もそれ欲しかったなぁ。

歌舞伎町を歩く人たちは、「一夜の泡」を掴むために街に集まっているように感じます。

なるべく大きな泡を膨らまそうとしたり、強く掴んですぐに弾けてしまったり。

だから毎日いろんなことが起きる街なのかなと。

私はここ数ヶ月、歌舞伎町へは行けていないので、また友人達とレイトショーを観て、マスクをせず歌いながら朝の歌舞伎町を歩ける日に想いを馳せて。

根本宗子(ねもと・しゅうこ)

1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演全ての企画、作品の脚本演出を手掛け、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手掛けている。ラジオが大好きな劇作家。2020年3月より事務所を退社してフリーで自由気ままに活動中。自粛期間中、リモートで打ち合わせ・稽古・収録を行なった「超、リモートねもしゅー」シリーズ2作品がFilmuyにて配信中。自身が編集長を務めるwebマガジン「ほまれ」を月額500円にて販売開始。
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【Story】Vol.9 「夜を感じる一夜の泡」根本宗子

text:根本宗子
illustration:牛久保雅美
photo:タケシタトモヒロ

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