【Story】Vol.12「液晶の光を辿って」永原真夏

文:永原真夏
2020.09.25

毎日多くの人が行き交う街、歌舞伎町。
あなたはこの街に、どんな思いを抱いていますか?

毎月更新のこのコラムでは、歌舞伎町になじみのある人物に街への愛を語ってもらいます。

第12回目は、バンド「SEBASTIAN X」のボーカルをはじめ、歌手としてソロ名義でも精力的に活躍をつづける永原真夏さん。

頻繁にライブハウスへ通っていたという彼女が歌舞伎町で過ごした、祝祭のような特別な時間とは?

Waveのなかで

歌舞伎町。最初はただの「栄えているところ」くらいの印象であった。
東京生まれ東京育ちの自分からすれば、いわゆる「夜の街」と呼ばれる猥雑さを知る前に遊び場になっていた場所で、「夜の街にたむろする若者」になる気など一切なく、純粋に友達と語り合うべく朝まで歌舞伎町の道端に座ってだらだらしていた。
お金がなくてもクラブやライブハウスに行きたければなんとかなったのも歌舞伎町に出向いた大きな要因で、今では信じられないかもしれないけれど、IDチェックもなければ受付もゆるゆるな場所も多々あり、それを良いことに現場で音楽を浴びては遊んでいた。

そう書くと超イケイケな人間像を想像すると思うが、そういうわけでもなく、わたしはいつもフロアの片隅でゲームボーイアドバンスをひとりでやっていた。一番ハマっていたソフトは「超執刀カドゥケウス」という医療ゲーム。ライブハウスやクラブの片隅でソフトドリンクを飲みながら、ラッパーのリリックが耳を劈く時も、スピーカーを歪ませるほどの倍音が産毛を揺らす時も、汗や人間の匂いで眼鏡が結露するモッシュピットが生まれる時も、歌手の歌に涙が流れそうな時も、わたしはゲーム機の液晶を見つめながら、音楽への憧れをひとりで膨らませていた。いつだって光の方へ、たくさんの人が羽を広げてウェーブをしていた。
そしてその時間はだいたい、共に来て別々に遊び呆けた友達の「そろそろ帰ろっかー」という一言で終幕する。
夜が来たら帰るのではない。朝が来たから帰るのだ。

さあ冒険だ、静かなる場所へ!

自分がバンドを組んで、歌舞伎町のライブハウスに頻繁に出演するようになってからもそのスタイルの根幹は特に変わらず、バンドマンたちがお楽しみ中の打ち上げをひょいと抜け出し、露天風呂に入ってみたり、花園神社にお詣りしてみたり、コンビニでアイスクリームを買ったりして夜を過ごしていた。
そういう、『盛り上がっている』隙間に落ちている、静かな場所を見つけてはそこに留まることが好きだったんだと思う。
雑踏の中にしかない静かなる場所。そこが何より心地よかった。そしてその場所が同じように好きな人とは、惹かれ合うように友達になっていった。

当時お付き合いしていた方もその場所を共に探してくれるような人だった。誰も私たちが恋人同士なことを知らない(秘密にしていた)身内だらけのライブハウスで、気づかれないように目配せをして、上手に時間差で打ち上げを抜け出した夜は、きっとずっと一生輝いている。
「職安通りのコンビニの前で待ち合わせ」とだけ伝えて、先に私がライブハウスを抜け出して、本当に彼は来るのかな、1時間以上待たされたらどうしよう、来なかったらどうしようと、不安になりながら体育座りで待っていた。
20分後に現れた彼を見て、さっきまで近くにいたのに、ようやく100年ぶりに会えたみたいな気持ちで胸がいっぱいになった。優等生的な人だったから、「この人にも、てきとうな嘘をついてその場を切り上げて、女の子と歌舞伎町に繰り出したりしちゃうような部分があるんだ!」と驚いたし、そういう人間らしい所がかわいい人だった。
その晩はなんだかお互いおもしろくてしょうがなくて、始発を越えても朝が来てもお茶を飲んでひたすらずーっと喋ってたんだ。手にさえも触れずに、あくびをしながら。

こんにちは、さようなら、おめでとう

10年前の大晦日も歌舞伎町で過ごした。当時仲の良かったバンドたちが大集合するカウントダウンイベントに出演して、路上で馴染みのバンド仲間たちと0時を迎えた。
その年は、みなCDデビューをしたり、ツアーで全国へ行き始めた年であると同時に、ライブハウスで出会った少年の訃報や、いつか消えてしまうということに直面した、喜びや悲しみ、生まれることや消えゆくことが混在する一年だった。
みんなどこか高揚していて、めちゃくちゃ爆笑しているのに、今にも泣きそうだった。
あの夜は、新しい夜明けと、もう二度と訪れない類の熱狂に包まれているんだという自覚と、若さという三つの線が直線で交わった、強力な一夜だった。
だからみんな、年明けを口実に、「おめでとう」と口々に祝祭の言葉を放ち、抱き合ったんだ。

歌舞伎町に慣れすぎた私たちは、人混みを少しでも避けて、JR新宿駅の東口からではなく西口から歌舞伎町を目指すことを覚えたし、ガッチャガチャなロックバンドをしていた少年少女たちは、本人たちの予想通り、それぞれの場所へ散り散りになっていった。

ただの「栄えているところ」くらいの印象であった歌舞伎町で起こった、わたしの人生に於けるMagicについて。平凡で、よくあることだとわかっちゃいながらも、こんなに話せるんだ。
なんだって起こりうるし、なんだって本当になるかもしれない。嘘だってついてもいいんだ、だれも暴かないから大丈夫だよ。度を越したら始末におえないけどね。
たくさんライブをした、たくさんのドリンクを飲んで埃と光と音を浴びて、酔い潰れているのか死んでいるのかわからない人を飛び越えて、血塗れの人が飲み屋に入ってきて、見上げたらイケメンホストの看板が燦々と輝く中、なにかを掴んだ手のひらは、まだ開いちゃいけない気がする。振り返っちゃいけない気がする。

みんなおかしくて、みんな普通だった。
でもまちがってる人なんて、一人もいなかった気がするよ。

永原真夏(ながはら まなつ)

歌手、SEBASTIAN Xのボーカル。2015年7月よりソロ活動を始動。 ライブを中心に、年に一度のペースで音源作品を発表。最新作は2020年3月に発売された 12inch Record『ラヴレター』。
また、ディレクターを務める雑貨ブランド『RinRin』をはじめ、自身のグッズデザイン、ZINE制作、詩の講師など、さまざまな分野で活動中。
好きなことは食べることと寝ること。好きな食べ物はスイカとセロリ。 天真爛漫なキャラクターと歌声で、今日も地球のどこかで元気に活動中。
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【Story】Vol.12「液晶の光を辿って」永原真夏

text:永原真夏
illustration:安藤晶子
photo:タケシタトモヒロ

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