コロナ禍に“歌舞伎町の台所”となった、フードトラック「トンカツ アリ」

文:藤井存希
2022.03.30

歌舞伎町「区役所通り」沿いに、毎週土曜の夜のみ出現するオレンジのフードトラック。『ミシュランガイド 東京』にも掲載された専門店仕込みの味わいのトンカツサンドやエビマヨサンドを販売する「トンカツ アリ」は、フードトラックであって“フードトラックのクオリティを超えている”と話題だ。もともと“移動型ラグジュアリー トンカツ店”としてスタートした「トンカツ アリ」が、この街に定着した理由とは?

“移動型ラグジュアリー トンカツ店”からスタートし、歌舞伎町「区役所通り」に定着

歌舞伎町の目抜き通り「区役所通り」沿い。大型LEDビジョンに映しだされるホスト広告に並んで、その華やかさに負けず劣らず、オレンジ色のフードトラックが異彩を放っている。毎週土曜の夜のみ、この場所に現れる「Tonkatsu ARI(トンカツ アリ)」だ。

オーナーの村上アリさんは、平日の昼間はIT系エンジニアとして働き、副業で六本木をはじめ全国に展開する高級うどん店などに、エビやイカ、カニ、タコの甲殻類を卸す水産の卸会社を手がけつつ、土曜の夜のみ歌舞伎町に自ら出向き、「トンカツ アリ」を出店している。このフードトラックは、バンドマン時代の師匠であり、ミシュランの星付きトンカツ店で腕を磨いたシェフの2人でスタートしたのが始まりだったという。

オーナーの村上アリさん

「シェフは有名店で3年修行した技術と上質な豚肉を仕入れるルート、僕は上質なエビやイカ、カニなどの甲殻類を卸しているので、2020年のコロナ禍を機に、トンカツとエビカツの二軸でフードトラックを始めました。当初は、シェフがこの専用車で注文先まで出向いてその場で調理する“移動型ラグジュアリー トンカツ店”としてスタートしました。“2.5人前で1万円〜”という高価格帯にも関わらず、ホームパーティへの出張やケータリングとしても人気になり、採算は取れていましたが、昨年夏頃からシェフが体調を崩してしまい、これまで2人体制で受注→運転→提供してきたフローを見直すきっかけになりました。

まず、デリバリースタイルをやめることで客単価を下げることにしました。より多くのお客さまに“揚げたてのトンカツ”を提供できる場所を探していたところ、当初のデリバリースタイルの時から応援してくれていた友人が、区役所通りにモニュメント的なビルを持っていて、お願いしてみたところ、なんとその1階にフードトラックを置かせてもらえることになったんです。このトラックはかなり大きめのサイズなんですが、そのビルの軒下に、凸と凹がぴったりハマって、それも運命のように感じましたね! あと数cmトラックが大きかったら入らなかったんです(笑)」

区役所通りには眩しいほどのネオンが灯るが、人気ホストクラブの大型LEDビジョンと、オレンジのフードトラックがあいまって、最も目立つ一角になっている。

「このビルの一部のLEDビジョンはトラックで隠れてしまうんですが、そのビジョンを月極で数百万円単位で契約しているホストクラブの方から、『毎週土曜一日なら潰していいよ』と許可をもらっただけでなく、その方自身もお客さまとしてカツサンドを購入しにきてくれるんです。この街で感じるのは、売れているホストやキャバクラ嬢ほど義理堅く、人情深い方が多いんですよね」

歌舞伎町での人の温かさを感じたと話すアリさん。コロナ禍で歌舞伎町も夜は飲食店が早仕舞いしてしまうため、フードトラックなら軽食を提供できるのでないかと、昨年9月から毎週土曜の夜のみ、この場所での出店をスタートした。

「トンカツ アリ食べたことある?」が挨拶がわり!?

「このエリアの特別なところは、深夜0時過ぎから人通りが一番多くなるということ。うちの店も夜中になってから3時頃までが一番混み合う時間です。最初はチラシ配りから始めて、小さな拡声器で『美味しいトンカツありますよ!』と声がけして道ゆく人に振り向いてもらうようにしていたら、徐々に近所のお店の方々とも顔見知りになってきて、常連のお客さまも増えました。出勤前のホストやキャバクラ嬢、バーのオーナーさん、その紹介でいらしたお客さん、ボーイさんなど、この街のあらゆる職業の人が買いに来てくれるようになって、あるお兄さんからは、『“トンカツ アリ食べたことある?”をキッカケに、女の子に話しかけてるよ!』なんてお話も(笑)」

撮影時、常連客からも「キッチンカーのクオリティを超えているんですよ!」という推薦コメントが寄せられ、その味わいが支持されているのがうかがえる。「トンカツ アリ」では、近くの店で働く方や、その店の来店客がすぐに食べられるよう、手掴みできる「極みヒレカツサンド」、「ぷりっぷりエビマヨサンド」を主力商品にしている。

1.5人前ほどのボリュームで、2人で食べても十分。

「うちのトンカツは、熟成されたバークシャー豚(黒豚)のヒレ肉を低温揚げすることにより、極限まで柔らかく仕上げているので、余熱での火の入り方も考えると、サンドイッチはちょうどいいんです。パンと水分のあるキャベツとのなじみも考え、べちゃっとしないよう中間に濃厚なソースを挟むことにしました。エビマヨサンドは、市場でも最高級とされているエビを使用しているので、お客さまもそのプリプリの食感にびっくりしてくれます(笑)」

「極みヒレカツサンド」1,200円(税込)
「ぷりっぷりエビマヨサンド」1,400円(税込)

エビマヨサンドは、素材の良さと、少し甘めの特製マヨソースがあいまって、高級中華を彷彿とさせる味わい。また、このトンカツサンドからハマり、シンプルに塩だけで食したいと「低温調理黒豚熟成肉の絶品ヒレカツ」をオーダーする人も増加中とのこと。「熟成ヒレカツは塩で食べていただくのが一番」と自信たっぷりのアリさんに勧められていただいた同行スタッフも、「これまで食べたトンカツの中で一番美味しい!」と絶賛。さらに派生して、昨年12月末には「とんかつ ARI 神田店」もオープンしたばかり。店内は15席の着席スタイルで、こだわりの生パン粉で揚げたサクサクのトンカツを味わえる。

「低温調理黒豚熟成肉の絶品ヒレカツ240g」1,800円(税込)

今後も可能な限り、歌舞伎町で毎週土曜夜のみの営業は続けていくというアリさん。

「週に数時間のみの限られた営業ですが、歌舞伎町で出店していることで、店のインスタグラムの投稿にホストの方から『今日やっていないの?』とコメントをもらったり、人気のキャバクラ嬢が『トンカツアリが仕事中の唯一の楽しみ』とアップしてくれたりと、この街に受け入れられた感じがしています。人と人との繋がりがないようで、みんなが温かい街なんですよね。どこの街よりも灯りがついているし、いま一番元気があって明るい街ではないでしょうか」

営業や予約などの問い合わせは、インスタのDMか、電話まで

トンカツ アリ(Tonkatsu ARI)

住所:東京都新宿区歌舞伎町2-11-4 新宿Lee3ビル1F(路面)
電話番号:070-2151-0358
営業時間:土曜21:00~深夜3:00頃(仕込み分の売り切れ次第終了)
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コロナ禍に“歌舞伎町の台所”となった、フードトラック「トンカツ アリ」

text:藤井存希
photo:落合由夏

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