【Interview】Vol.3 「お金も地位も関係ないし、干渉しないやさしさがあるから」DJ・ハンナが新宿ゴールデン街で働く理由

文_佐々木ののか
2019.12.20

若者に人気のファッションブランドなどでモデルを務める傍ら、レコードだけでプレイするDJに定評があるハンナ。

そんなハンナが週に3回働くのは、新宿・歌舞伎町を語るうえでなくてはならないスポット・ゴールデン街。全部で300軒以上にもなる小さな店が軒を連ねているこの場所には、唯一無二の風景がある。

モデルにDJと多彩な活躍を見せるハンナは、どうしてこの街で働き始めたのか。その理由をひも解いていくと、ゴールデン街の魅力が自ずと立体になった。

高校を中退して上京、ゴールデン街に「超食らった」

ゴールデン街のバー「Mar そんな感じ…」の看板娘、ハンナ。取材当日も20時から出勤だった。

遡ること4年ほど前。高校を中退したばかりだった当時16歳のハンナは、実家のある栃木を出て上京し、モデルとしての活動をスタート。ファッション誌『KERA』やブランドのストリートスナップなどに出演するなど、精力的に活動していたものの、経済的には決してゆとりがあるとは言えない生活だった。

「とにかくお金がなさすぎて。ラッパーたちが路上でサイファー※してるのを見ながら踊ったり、5人集まって出し合った1,200円で酒買ったり、スナックもどきの店で一日働いて稼いだ30,000円をその日のうちにみんなで使っちゃったり。みんなで写真を撮ったりとか、スケーターたちと遊んで映像を撮ったりとか。あの頃が一番自由だったし、クリエイティブだったかもしれないですね」

※サイファー:複数人が輪になって、一緒にラップをすること。

現在の活動の柱のひとつである音楽に興味を持ち始めたのも、この頃だった。友人の紹介で行った田原町のサウンドバー『Pure’s』で「ディープハウス」と呼ばれるジャンルに触れたことがきっかけで、ダンスミュージックの魅力に取り憑かれたハンナ。そんな彼女が新宿を訪れたのは、18歳になってからだった。

ハンナが憧れの人たちと出会えたのも新宿だった。

「歌舞伎町にゆかりのあるラッパーのMC鬼(おに)さんに憧れて、ゴールデン街に通い始めたんですけど、初めて行ったときに超食らって。赤ちょうちんがぶわーっと並んで、狭くて、酔っ払いがぐでーんとなってて。Vシネマでしか見たことがないような世界が目の前に広がってて、私はすごく好きだったんですよね」

ゴールデン街に通ううち、「珍呑(ちんどん)」のスタッフだった同い年の画家の女の子と意気投合。彼女の紹介でお店に入ってからすぐに”店の顔”になり、常連と打ち解けるまでも時間はかからなかった。

夜から翌日の昼までカウンター越しに常連と飲んで話す”パーティー”が仕事。そんな毎日を繰り返すうち、モデルの仕事について違和感を抱くようになったという。自分が関心あることについての重点がモデル業よりも、はるかに音楽にあることに気づいたのだった。

「当時はモデルの仕事もかなり頑張ってはいたんですけど『私はなんか違うっぽいな』って思うようになって。そのときに音楽と飲み屋があれば十分だなって思ったんですよ。お店で好きな音楽をかけて、踊りながら酒つくってお客さんと話して、ときどきDJすることが仕事として成立するなら全然いいなって。ゴールデン街で働いてなかったら、そんな風には思えていなかったかもしれない」

権力やお金、知名度で左右されない

ゴールデン街のバー「Mar そんな感じ…」を訪れる客は男女問わず、彼女目当てのお客さんが多い。

「私のお客さんには、『文が書けない太宰治』みたいな甘えん坊な人が多いんですよ。『もう俺はダメなんだよ。酒を注いでくれよ』みたいな。だから私、ゴールデン街で働き始めてから、それまで大好きだった太宰治が読めなくなっちゃったんですよ。あいつらみてぇだなって思ったらムカついてきちゃって(笑)」

ゴールデン街の常連について毒づくハンナ。「文が書けない太宰治なんて、まさに”人間失格”以外の何者でもないですね」と水を向けると「でも、私もダメダメだし、同族だからなぁ」と言って笑った。

「たとえば、明日の住む家もないかもしれないっていう状況の人が、めちゃくちゃお金持ちの大きい会社の社長にお説教していることもあるんですよ。言われた社長も『そうだなぁ』って話を聞いていて。芸能界の方や有名な作曲家の方がいらっしゃることもあるんですけど特別扱いしなくていいし、権力やお金、知名度で左右されなくていい。その人がどういう飲み方をするかとか、私たちにやさしいかどうかでお客さんを選べるところが好きですね」

山にも、この街にも、放っておいてくれるやさしさがある

ハンナがゴールデン街の店に出勤するときは、彼女の好きな音楽がずっとかかっている。

好きな音楽の話になると大きな瞳をさらに見開き、興奮気味に語り出すハンナ。「オタク丸出しで恥ずかしいですけど」と言いながら、レコードを使ったDJやオーディオの質へのこだわり、90年代のニューヨークでクラブ旋風を巻き起こした伝説のディスコ「パラダイス・ガラージ」の魅力について真剣に語る姿からはドープな趣味や堅実で熱い人柄がうかがえる。愛らしいハードの中にいくつもの多面性を抱える彼女が「歌舞伎町やゴールデン街が居心地の良い街」と話すのは必然なのかもしれない。

「いろいろな街に行きますけど、やっぱり新宿が一番居心地が良いんですよね。歩いていても、よく見ると『あの人、絶対に変な人だ』って人がたくさんいるじゃないですか。でも、そういう人をみんなスルーするし、誰も見てない。そういう放っておいてくれるやさしさがこの街にはあって、めっちゃいいなって」

新宿の”干渉しないでくれるやさしさ”について「特に歌舞伎町は山と近いかもしれないですね。山って、自分以外のものが勝手に動いているじゃないですか。誰も自分に干渉してこないけれど、なんとなく見守ってくれている感じ。もちろん、山のほうが空気はきれいだけどね!」と話すハンナ。

最後に、今後どういう活動をしていきたいか尋ねると、まるで夕食に何を食べたいかについて話すような軽やかさで、こう答えてくれた。

「一生音楽ができたら何でもいいかなって感じです。音楽つくって、レコードに触れて、最終的に自分で店をやりつつ、一生パーティーできればいいかな。でも、歌とかもやりたいなって色々考えてます。場所はそうですね、やっぱり新宿がいいな。ゴールデン街は音が大きいと怒られちゃうから、歌舞伎町がいいかなぁ」

プロフィール

ハンナ
DJ、バーテンダー、モデル。栃木県出身。高校中退後に上京し、現在はゴールデン街のバー「Mar そんな感じ…」の看板娘。

Mar そんな感じ…
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-7
電話番号:03-3208-2001
営業時間:月〜日  19:00〜28:00
定休日:なし

Vol.3 「お金も地位も関係ないし、干渉しないやさしさがあるから」DJ・ハンナが新宿ゴールデン街で働く理由

text:佐々木ののか
photo:阪元祐吾

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