【Interview】Vol.7 明和電機・土佐信道が歌舞伎町の「ロボットレストラン」に魅了される理由

文_矢郷真裕子
2020.04.03

「ナンセンスマシーン」と呼ばれる、ユーモアたっぷりのさまざまな楽器作品などを開発しているアートユニット・明和電機。その代表取締役社長・土佐信道が愛してやまない場所が「ロボットレストラン」だという。新宿・歌舞伎町のど真ん中にあるエンターテイメントスポットだ。
以前、女性型の巨大ロボットを乗せたド派手な宣伝カーが、中毒性のあるテーマソングをガンガン鳴らしながら新宿の街をよく走り回っていた。その印象的な光景を、いまだに覚えている人も多いのではないだろうか。

「意外に思われるかもしれませんが、ロボットレストランと明和電機には似たようなところがあります」と語る土佐が、ロボットレストランを通して見つめる歌舞伎町の姿とは、いったいどのようなものなのだろうか?

人間力あふれる、ライブ感たっぷりのB級テクノロジー

ロボットレストランのラウンジにて。

2012年7月。総工費100億円という謳い文句で、歌舞伎町に突如登場したロボットレストラン。女性型ロボットのビジュアルに衝撃を受け、好奇心の赴くまま、土佐はオープン翌日に足を踏み入れた。当時は今より女性パフォーマーの露出が多く、‟お色気”の要素が強かった、と回想する。

「パフォーマーの人たちが慣れていなくてガチガチに緊張している分、『誰かに無理やり踊らされているのかな』と思うような、初心ないやらしさが魅力でした(笑)。そもそものコンセプトとして、僕らのようなメディアアートやテクノロジーアート分野の人間から見ると、‟お色気とテクノロジーの合体”はあまり見かけない組み合わせなんですよ。昔から大阪万博で巨大なロボットが動き回ったり、現在もチームラボがプロジェクタームを駆使して華やかなショーを作り上げたりと、昔も今もエンターテイメントとテクノロジーの組み合わせはありました。でも、そこに‟オネエさん”が関わっているものはありそうでなかった。ロボットレストランという存在をわかりやすく言うと、美術館の中で体験するような高尚なメディアアートとは違う、大衆にむけた‟B級のメディアアート”だと僕は思いました。僕たち明和電機も、やっていることは“B級”なので、シンパシーを感じてビビッときたんでしょうね」

ロボットレストランのショーの様子。ストーリー仕立てでさまざまなロボットとパフォーマーが登場し、ダンスやバトルのショーを繰り広げる。

自分自身も機械を扱う土佐だからこそ、ロボットレストランの予想外な楽しみ方がある。その根底にあるのは、「機械は必ず壊れる」という、ものづくりにおける考え方。私たちはロボットと聞くと、オートメーション化された完璧な工場で作られ、すべてが自動で動く機械と想像しがちだが、実際は裏で人間が機械を手厚くコントロールしなければ動かない上に、ややもするといきなり壊れてしまう。ロボットレストランも明和電機も、そんな不安定な機械がステージの中心にあるからこそ、そこがマシーンエンターテイメントの面白みなのだという。

身ぶり手ぶりを交えながら、ロボットレストランの魅力を生き生きと話す土佐社長。

「あるとき、ショーを観ていたら巨大蜘蛛のロボットが出てきたんですよ。暴れ回って糸を吐いた後に巻き取り装置が壊れたみたいで。僕は心の中で『キター!』と興奮しました(笑)。スタッフがすぐに糸をかき集めて事なきを得たのを見て、やっぱり重要なのは‟人間力”なんだなと、めちゃくちゃ共感しましたね。明和電機も完璧を目指して本番に臨むのに、機械はいつも『えっ!?』と思う意外な部分が壊れてしまう。大変だけど、その瞬間に『どうやったら乗り越えられる?』と脳がフル回転してテンションが上がるんですよ。何が起きるかわからない、ハラハラするライブ感は、歌舞伎町っぽさに通ずるかもしれません」

ロボットも外国人も馴染む歌舞伎町は、浮世離れしたテーマパーク

ロボットレストランの電飾や内装、ショー演出はギラギラと輝き、目に痛いほど。この‟ヤンキー感”は、土佐いわく日本の伝統文化。江戸時代の人々が‟粋(いき)”と呼んでいたような世界に近いのだとか。

トイレの中も眩しいほどに金ピカ。

「明和電機も、ライブで80年代の暴走族スタイルのヤンキーになる‟バリバリモード”のときがあり、そこも実は親和性があるんです。特攻服バージョンのユニフォームを着て、暴走族がバイクで使うクラクションを使用した、ビカビカ光る‟武田丸”というサックスを吹いて(笑)」

‟粋・ロボット・お色気”というバラバラな日本の伝統や得意分野が、歌舞伎町という超B級の大衆的な場所で合体しているのが、土佐にとっては痛快なのだそう。

「日本には昔から‟からくり芸”というショービジネスがあり、花魁や遊女はからくり人形やからくり時計が大好きで、集めていたそうです。現代でも、歌舞伎町というテーマパークのようなカオスな街に集う浮世離れした人たちと、ロボットの不思議な面白みは、相性がいいんだろうなと思います」

「明和電機で開発した‟SUSHI BEAT”というオモチャも、ロボットレストランに馴染みますね」と土佐社長。

それぞれ過剰に演出された、多種多様な店や人があふれる歌舞伎町。「まるでジェットコースターに乗りに行くような街ですよね。テーマパークほど安全じゃなく、毒に当たるときもあるから、弱っているときには行けない」と土佐は笑う。そんな歌舞伎町の雰囲気も込みで、ロボットレストランは外国人が好む日本の要素の詰め合わせであり、インバウンドで連日にぎわっている。土佐自身も、海外の友達が来日した際に「連れていってほしい」と頼まれることが多いと言う。

「間接的ではありますが、明和電機も海外での活動が多いので、外国人が何を面白がるのか参考になる部分はあります。僕の持論ですけど、ロボットのぎこちない挙動は、実は生物である人間にとって、本能的に“なんだか怖い”と感じる部分があると思うんです。さらに、国や地域にもよりますが、外国人は‟フランケンシュタイン・コンプレックス”といって、ロボットがいつか人間を襲ってくるんじゃないかという恐怖心が強い傾向であるみたいで。でも、そこをうまく演出し、たとえば「かわいらしさ」を加えて大衆に受け入れやすいものにできたら、一気にエンターテイメントになるんですよ。明和電機が海外でできるのも、機械だから言葉がいらないのと、デザインなどにかわいらしさや馬鹿馬鹿しさがあるからです。ロボットレストランは、奇妙なロボットをかわいいオネエさんが操作するのも、外国人にウケるポイントでしょうね(笑)」

土佐は続けて、「日本人には粋でマニアックな気質や、『型を作り、型を育て、型を破る』という‟守破離(しゅはり)”の精神がある。それが、世界に通用するエンターテイメントを生み出すのかもしれない」と話す。

「種子島に鉄砲が伝来してからしばらくの間、世界で最先端の鉄砲隊や鉄砲技術を持っていたのは、実はヨーロッパじゃなく日本なんですよ。ところがその後、なぜか日本は大砲を作るのではなく、花火を打ち上げることに火薬の技術を利用します。出発点の鉄砲というテクノロジーは一緒なのに、日本は『イエーイ!』というお祭り的な方向に進化を遂げていく。そのせいで大砲を積んだ黒船が来たとき、あっというまに降参(笑)。でも価値観としては、テクノロジーを戦争に使うより、お祭りに利用するほうが平和ですよね。だから日本人は気質的にも、文化的なテクノロジーの方向性を突き詰めていくのが合っているんじゃないでしょうか」

世界中にファンがいる明和電機だけに、普段から海外を意識して作品を作ったり、パフォーマンスを行ったりすることもあるのだろうか。

「海外というか、全人類に伝えることを意識しています。音楽や絵は、言葉がなくても直感的にわかる。芸術やアートというのは、そういうものだと思いますから、国境に縛られなくてもいいだろう、と。宇宙から未知の敵が攻めてきたら、地球の全人類が一丸となって戦わなければならないですし(笑)」

カオスで不可解だからこそ、ひときわ輝く美しさや芸術性

明和電機が最初にアトリエを構えた場所は市ヶ谷。土佐は上京直後から、新宿の世界堂や東急ハンズに足を運んでいた。1998~2016年は吉本興業に所属しており、ルミネ新宿内の劇場や、歌舞伎町の吉本本社にも足繁く通っていたという。

「明和電機のショーやリハーサルを、歌舞伎町のど真ん中にある小屋でやったこともありますよ。血気盛んなホストだらけのところで搬入や搬出をしなきゃいけなくて、大変だったのが思い出深いですね。気づけば長い間、新宿にはお世話になっています」

いつの時代も多彩な表情を持つ巨大都市・新宿。その中でも、芸術やアートの側面から、土佐は歌舞伎町をどのように見ているのだろうか。

「歌舞伎町は、ロボットの無機質さとは対極的な、人間の汚さや泥臭い部分がある街です。アートの話でいうと、美しい素材を使って美しいモチーフを表現したからといって、美しい作品ができるとはかぎらない。汚い素材を、汚く使っても『うわあ!美しい!』と感じられる瞬間が表現できる。それが芸術家だと思うんです。例えば2016年、歌舞伎町の廃ビルでChim↑Pomさんの個展があったんですが、その会場を見たときもそれを感じました。現場は廃棄物や壊れた建造物であふれていてドロッとしてたんですが、随所に『あっ、美しい』と思う瞬間がありました。もしかしたら歌舞伎町に来る人たちも、無意識的に、この街自体にそういった素敵な感覚を覚えているのかもしれません。泥臭くて、汚くて、刹那的で、人間模様が濃い。けれど、その中にキラリと輝く一瞬があるところが、アーティスティックな‟歌舞伎町イズム”じゃないでしょうか」

泥臭さや猥雑さがあるからこそ、さまざまなエンターテイメントやカルチャーも生まれてきた歌舞伎町。しかし大規模な再開発事業が進み、街並みは変わりつつある。土佐が未来の歌舞伎町に期待することとは何だろうか?

「例えばベルリンでは都市開発をしようとすると、住民の大きな反対運動が起き、その開発が本当に良いことかどうか徹底的に住民が議論をします。そうした運動によって、街の歴史やクリエイティビティが守られ、文化価値も上がっていく。だけど日本の都市開発では、住民の意見を全部ガシャンと潰してしまうことが往々にしてあります。そして、新たな建物の中にセンスのいい店を集めればセンスがある空間ができる、と考えがちですが、その街ならではの魅力が無くなって、逆に寂れてしまうパターンもある。歌舞伎町も再開発をするにしても、『カオスな部分はカオスのままでいい』と、歌舞伎町ならではの泥臭い部分は残ってほしいですね」

街の‟カオスな部分”について、「小さな祠や、何をやっているのかわからない店など、あちこちに不可解なものや淀んでいるものがあるから、街は機能しています。曖昧なものを明確にし、排除した途端、都市の息の根が止まってしまう気がするんです」と語る土佐。

「歌舞伎町の‟不可解さ”というエンターテイメントはキープしてほしい。日本の伝統文化である“ヤンキー”と、イカれたロボットたちの“マッドサイエンス”そして“お色気”が合体したカオスな場所であるロボットレストランは、まさに不可解の象徴。今後もあり続けてほしいですね」

ロボットレストラン

住所:東京都新宿区歌舞伎町1ー7ー7新宿ロボットビルB2F
電話番号:03-3200-5500
HP

土佐信道

1993年、実の兄・土佐正道とともにアートユニット「明和電機」を結成。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで様々な“ナンセンスマシーン”を開発。ライブパフォーマンスや展覧会の開催、作品をおもちゃや電気製品に落とし込んでの大量流通など、たえず新しい方法論を模索しながら国内のみならず海外でも幅広く活躍中。2018年にデビュー25周年を迎え、2019年には秋葉原「東京ラジオデパート」にて明和電機初の公式ショップ「明和電機秋葉原店」をオープンさせた。
HP
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【Interview】Vol.7 明和電機・土佐信道が歌舞伎町の「ロボットレストラン」に魅了される理由

text:矢郷真裕子
photo:金本凜太朗

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