【Interview】Vol.27 「渦に呑まれないように、常に自分を信じられるようにしておきたい」葵揚の生きる指針

文:西森路代
2021.09.30

話題作の中に、バリッと剃り上げた坊主頭でひときわ目立つ俳優がいる。葵揚(あおい・よう)は2019年のデビュー以来、大河ドラマ『いだてん』、映画『HiGH&LOW THE WORST』などでその存在感を発揮してきた。現在公開中の映画『君は永遠にそいつらより若い』では、佐久間由衣演じる主人公のバイトの後輩・安田役を好演している。異彩を放つ25歳は、俳優としての自身をどうとらえているのか――。

— まず歌舞伎町について。撮影中に歩いていて、知ってる場所がたくさんあったようですね。

以前、ゴールデン街にある「OPEN BOOK」というバーでバイトをしていたんです。もともと、そのお店のオーナーの実家が空き家になってるからってことで、カメラマンやヘアメイク、PRの仕事をしてる友達とそこをシェアして住んでたんですね。住んでる友達のうち2人がそのバーで働いていたこともあって、僕もバイトをすることになりました。今は、それぞれが別のところに住んでるんですけど、みんなやってることは変わらないです。

— 歌舞伎町ではほかにどんなところに行っていましたか?

ゴールデン街のほうはたくさん歩いてたんですけど、「新宿」って一言でいってもいろんな顔がギュっと詰まっていて面白いですよね。この新しいビル(編注:新宿TOKYU MILANO跡地)が建っている西武新宿駅方面はあまり歩いたことがなかったんで、今日は違う「新宿」を見たような気がしました。

— 以前よく通っていたというお店の前も通りましたね。

「つるかめ食堂」ですね。定食を食べられる食堂で、バイトの前後で腹ごしらえをしていました。ふらっと行くのにちょうどいい場所にあったんですよね。

— 葵さんが俳優になった経緯も聞かせてください。大学時代にモデルをしていて、そこから縁があったんですか?

モデルは、やってるようでやってないみたいな中途半端な状態だったんです。大学を卒業しても就職したいと思うところがなかったので、一度ちゃんとモデル活動をやり遂げようと思って所属先を探すタイミングで、今の事務所を知り合いに紹介していただきました。

マネージャー 紹介も何も、ふらっと来たんですよ(笑)。

コーヒーショップに行くノリで事務所に行って(笑)。しかも、送った資料の写真では髪の毛があったのに、急に坊主頭で現れたので「おや?」ってなって。

— 坊主になったのがそのタイミングだったんですか?

そのころ、地元からずっと一緒の親友と2人で、千葉の海沿いの町に住んでたんです。賃貸の契約更新のタイミングで「住む家がない」って周りに相談してたら、「使ってない家があるから住んでいいよ」って言われて。千葉のかなり奥のほうで、東京駅から高速バスで2時間くらいかかるし、街灯もない場所でした。一番近いスーパーでも自転車で30分かかるようなところだから、毎日全然人に会わないんです。習慣で、朝起きたら寝癖でボーンってなった髪をセットしてたんですけど、ある日「なんで俺、毎朝セットしてるんだろう?」ってなって。一緒にいるのは親友だけだし、何に気を使ってるんだろうと思って、その日にバリカンを買って坊主にしました。

— そこからずっと坊主なんですね。

そうですね。最初の仕事が坊主頭で決まって、そこからありがたいことにちょこちょこ仕事をいただいて。こだわりがあるわけじゃないんですけど……。

— 最初に決まった仕事はなんだったんですか?

事務所に入って1~2カ月くらいで受かったのが『いだてん』でした。

— すごいですね。第2部の主役・田畑政治の若い頃の水泳仲間の役で、すごく印象に残ってます。

日本で最初にオリンピックに出た、内田正練さんという方の役でした。

— もし今後、「髪を伸ばしてください」と言われたら?

全然伸ばします。『HiGH&LOW THE WORST』では坊主より少し長めの、ソフトモヒカンっぽい髪型なんです。でも、ビジュアル撮影前日に自分で剃っていたら、間違えてバリカンが深いところに入ってしまって……。慌ててマネージャーさんが毛の生える薬を分けてくれたり、ヘアメイクさんの技術もあってなんとかなりました。

— 『HiGH&LOW THE WORST』で葵さんが演じた沢村という役は、大人っぽい落ち着きがありましたね。

僕たちのいた鳳仙学園は、鬼邪高校の生徒たちみたいにゴリゴリの不良でもなくて、組織っぽいところがあるんですよね。だから、お互いを信頼しあっていて一枚岩みたいなところがある。大人っぽさっていうのは、そういう学校の持つ空気から出てたんじゃないかなとも思います。

— 沢村は鬼邪高と鳳仙の抗争のきっかけになる役だから、みんなが戦っている河川敷のシーンにはいないんですよね。

そうなんです、あの作品の見せ場のシーンにいなかったっていう……(笑)。でも、抗争のきっかけとなるシーンの撮影も大変だったんです。雨に打たれて、血まみれでびちゃびちゃになりながら夜中まで撮影して。「アクションの撮影はやっぱり大変だなぁ」と思ってたんですけど、できあがった作品を観たら河川敷のシーンはもっとそれどころじゃない大変さだったんだろうなと……。

— 同作の久保茂昭監督に対してはどんな印象を持たれましたか?

飄々とされている中で「持ってるものを見せてみな」とこちらに挑んでいるような感じがしました。

— 同年代の俳優がたくさんいる現場の雰囲気はどうでしたか?

やっぱりみんな、自分のスタイルだったりに自信を持ってる人が多くて、最初は互いに張り合ってる雰囲気があったんですよ。僕自身は違うというか、そこには参加してない感覚でしたけど。でも撮影が進むと、話が弾んで「こんなところもあるんだ」ってお互いが見えてきたり、LDHの人たちは普段から仲が良くて和気あいあいとしているし、そういう雰囲気が周りに伝わって和んでいったんだと思います。

— ほかの共演者たちと自分は「ちょっと違う」という感覚があったんですね。

そうですね。ほかの出演者の方たちは見るからにかっこいいから、ちょっと自分は違うんじゃないかなと思ってました。中学高校とずっと男子校で新体操部にいて、女性と関わる機会もなかったですし、大学時代もモテるとかちやほやされるということとは無縁でしたから。

— 大学時代は何に時間を費やしていたんですか?

学校に併設されていた無料のジムに通ってて、ウエイトが友達でした(笑)。でもなんだかんだ助けてくれる友達に恵まれてて、いろんな情報ももらえて無事に卒業できました。

— 卒業しても行きたい企業がなかったから就職しなかったということでしたが、小さい頃になりたかったものは何でしたか?

それも特になかったんです。『君は永遠にそいつらより若い』の劇中で佐久間由衣ちゃん演じるホリガイが卒論のために集めていたアンケートがあるんですけど、映画のパンフレットで出演者がそれに回答してるんです。でも、僕、「小さい頃の夢」の項目が「特になし」でした。マネージャーさんからも「何かあるでしょ?」って差し戻されたけど、断固として「特になし」で。

— ウソは書けないですもんね(笑)。

はい。

— 俳優を始めてからはどうですか?

夢が広がったかってことですか? どうですかねぇ。今まで「どんな役をやりたいですか?」って質問に対して答えがなかったんです。でも、最近、柄本佑さんが何かのインタビューで「なりたい役とかやりたい役は特にない。そう聞かれて答えられるのは、おそらく自分が頭で考えてできるであろうと思える役だろうから、そうじゃなくてなんでもやりたいです」というようなことを答えられていて。「なるほど!それだ!」って。

— 仕事をしていて、「しんどいな」と思う役もありますか?

全部しんどいですね。自分とは違う人間の気持ちになって考えるのは大変な作業だなと。僕自身はあんまり人に期待をしないスタンスで、人に怒ったり失望したりすることがないんです。それって、人に期待しないと湧きあがらない感情だと思うんです。そういう人間が人の気持ちになるのって、結構エネルギーを使う作業なので……。僕、ダメだなとは思うんですけど、目の前でワーっと怒られると逆にどんどん冷静に「怒ってるな〜」って思えてきて、ちょっと笑えてきたりして。本当にダメなヤツなんですけど。

— ちょっとわかる部分もありますし、そういう人もいるんですよね。事務所に入ってすぐに大河ドラマの現場に入ったり、とにかく自分で見様見真似でやっていくしかなかったんじゃないかと思いますが、そんな中でどうしてきましたか?

テクニカルなことってあると思うんです。たとえばあるシーンにおける目線の動かし方だったり、観た人にその意味をどう感じてもらうかだったり、そういうのはテクニックとしてあると思うんですけど、誰かのそれをそのまま真似しても同じようにはならないんですよね。答えが何通りもあるので、その中で、どれだけ説得力を持たせられるかっていうのが、俳優個人がすべきことというか……。すごい真面目なこと言っちゃいましたけど。でも、頭で考えたことと体の動きって一致しないもんですよね。空を飛びたいと思っても、そんなすぐには飛べないじゃないですか。

— 「すぐには」なんですね(笑)。

努力すれば(笑)。『空想科学読本』って本に、人間も胸筋が2メートルくらいあれば飛べる、みたいに書いてあったんで。

— 大学のときに体を鍛えようと思ったのは、飛びたいからではなく?(笑)

中高生の頃、すごいガリガリだったんです。僕の両親は台湾人で、おじいちゃんおばあちゃんが住んでる台湾に行くたびに「細すぎる、もっと食べなさい」って言われて。心配させてるのが嫌だな、不孝者だなと思って、少しでも「僕は健康ですよ」って言いたくて鍛えようと思いました。

— 鍛えてからは心配されなくなりましたか?

鍛えてからは逆に「え、もうよくない?」とか「よくわかんないわ!」みたいになって。空振っちゃいましたね(笑)。

— ちょっと話が前後しますが、そもそも大阪から上京して東京の大学に進学したのは何か理由が?

指定校推薦がとれたからです。もともと上京したいって気持ちは特になかったんで、まったくなんの知識も持たずに東京に来ました。だから全部が新鮮でしたね。こういう仕事をするようになったのもすごい新鮮だし、縁と言えば縁だし。要所要所で手を貸してくれる人もいるし、意外と悪くないんじゃないかなって思ってます。

— 話を聞いていると、住むところが見つかったり事務所を紹介してもらったり、たしかにいろんな縁に恵まれている印象です。芸能界に入ってからはどうですか? 仲間ができたとか。

同業者の人たちと「戦友」みたいな意識を持つのはまだ難しいかもしれません。役者だからどうとかっていうよりも、僕にとっては「どうやって生きていくか」が大切で。人間として成長したいというか。人に恵まれてたくさん助けてもらったんで、本当に強いて言えば、役者だとかそうじゃないとか線引きなく、自分が関わった人やお世話になった人に恩返しができるぐらいにはなりたいなとは思ってます。それこそマネージャーさんにしても、ただ所属してる事務所のマネージャーとしてというだけではない、深い意味合いで助けてもらっている感覚がありますし。

— インタビューの最中も、ボケツッコミみたいなところがあって面白いコンビだなと思いました。「どうやって生きていくかが大切」とはどういう意味なんでしょうか?

「どうやって明日食っていこう」っていうサバイブ的な意味もあります。仕事をもらうってことは、自分を必要としてくれるところに行って自分の時間とエネルギーを使うってことで、それはもちろん光栄ですし。だから、俳優も生きるための生業って感じなんです。

— そのサバイブのために努力していることは?

なんだろう、現場現場で爪痕を残そうとするのは、もしかしたらトリッキーな発想なのかなって気がしてます。そのとき爪痕を残そうとして集中してやったとしても、後になって振り返ると、自分が伝えたかったことがわからなくなることもあるなと思って。だから、それを避けるためにも、普段から自分の芯を太く持って、その芯の太さが仕事をしている中で少し出てくるってほうが説得力があるのかなって。だからこそ、なるべく好きなことをやって、好きな環境を作りたい。それが努力ですかね。

— 期待に応えることにだけ一生懸命になっていると、合わせるばかりでブレてしまって何をやってるのかわからなくなるということは仕事においてたしかにありますね。私の仕事でもそうです。

環境を整えるって難しいと思うんですよ。人付き合いもあるし、わがままを通すことも難しいし。そういうことができるように、環境を維持し続けることは結構大変なことだと思うんですよね。

— 俳優は特に若いときは適応することが求められるし、周囲と比べられることも多そうですもんね。

そうなんです。比較対象がたくさんあって、自分以外の人のほうがキャリアも見た目もいいし、チャンスも持ってるだろうしと考えてしまって、自信をなくそうと思えばどんどんなくせてしまう。自分の好きなものとかやりたいことがわかっていて、自分のキャリアや自分の人生に自信が持てるためには、常にメンタルを整えていないと、すぐに渦に呑まれちゃうんじゃないかって。だから自分を信じられるようにしておきたいなと思います。
最近、山に登ったんです。神奈川の秦野市にある塔ノ岳っていう山で、高さ1490メートルくらいだったかな。だいたい往復7時間くらいかかる山だから結構大変で、天候も悪かったし岩場には苔が生えてて滑るんです。普段、生きてる中で「自分、生きてる」って思うことはなかったんですけど、身体的に追い詰められて心が折れそうになりながら登ってると、強く実感しました。山も海も抗えないんですよね。自然の中で自分もひとつの命でしかないんだなって思って。ちょっと何が言いたいのか分からなくなったけど(笑)。

— 伝わってます。現在、公開中の映画『君は永遠にそいつらより若い』に出られています。『いだてん』や『HiGH&LOW THE WORST』ともまたちょっと違う、「バカだけどいい奴だなぁ」という感じの役でしたね。

そうですね。安田という役はまっすぐで表裏もなく、わかりやすく言うと明るいバカなんですけど、僕もすごい好きなキャラクターでしたね。

— 悩みを持ってて、強引な振る舞いをする部分もあるけれど、そこに理由があるのも伝わってきました。結構難しい役だったのではないでしょうか。

安田は表面的には抜けているように見えてるけど、大きなコンプレックスがあるんですよね。でもそれを打ち明けるまでは、劇中の周りの人にも、映画を観ている人にもそのコンプレックスがわからないくらいに明るい。まあ、真面目なんだと思います。原作を読んだときも、真面目だけど空振ってる部分があって、それが愛嬌があっていいなと思ったので、そういう部分が出たらいいなと思ってやってました。

— 原作小説も良い作品で、それだけに映画化するのが難しかっただろうなと思いました。単に原作のあらすじをかいつまんだ凡庸な作品にもなりかねなかったかもしれないのに、より伝わるものになっていました。

吉野(竜平)監督がテーマとして持ってらっしゃるのが、欠落感とかコンプレックスを抱えながら、他者と関わったり社会の中でどう生き抜いていくか、みたいなところなんですよね。それは誰しもあることだし、もしキャラクターには共感できなくても、生き方だったりとか持っているコンプレックスだったりとかは、多くの人に刺さる部分があるんじゃないかなって。作品を観て気持ちが軽くなったり何かが解決したりってことはもしかしたらないかもしれないんですけど、でも何かを考えるときに「あ、これでもいいんだ」とか、そういうヒントになるような映画になってたらいいなと思います。

— 個人的なところからちゃんと社会的なことにつながってるなと感じました。すごく良い監督がいらっしゃったんだなと。

ほんとです。監督自身もコンプレックスを隠さない人で、「僕みたいな人間はダメなんですよ……」とかしょっちゅう言うんですよ。そんな監督だからこそすごく繊細な映像を撮るんですかね。

— このまま、いい役にいっぱい出会っていってほしいです。

それも出会い、縁ですね。この機会(取材)も縁だと思いますし。年代によって、映像作品や芸術に対しての見方って変わっていきそうじゃないですか。若い世代向けの作品は、ストーリー展開が面白いとか、刺激的な作品であるとか、見どころをいっぱい作ろうってところを目指してたりすると思うんですよ。でも、30代、40代、50代になると、「いや、人生ってそういうもんじゃないでしょう」ってなってくるのかなと。もっと人生って平凡で、でもその中に小さい出来事があって、それも愛しくて、そのときの小さな感情とかを死ぬ前に思い出すような、そういう哀愁を感じられる人が多くなっていくんだろうなって。そういうものが自分も面白いなと思うようになってきています。

葵 揚(あおい・よう)

1995年12月25日生まれ、大阪府出身。立教大学を卒業後、モデル・俳優として活動。大河ドラマ『いだてん』(NHK)、『ブラック校則』(日テレ)、映画『HiGH&LOW THE WORST』など、デビュー以来話題作への出演が続くほか、各種CMやMVにも出演中。

Instagram

衣装協力
ジャケット¥56,000(MARTIN ASBJORN / LIGHT WORLDCORP TEL03-6876-1098)、タートルネックスウェット¥17,000(NITEKLUB / NITE KLUB&Co. TEL03-6846-5315)、パンツ¥22,000(MAGIC STICK TOKYO TEL03-6434-5504)

映画『君は永遠にそいつらより若い』

(c)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会
出演:佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将、葵揚、森田想、宇野祥平、馬渕英里何、坂田聡

監督・脚本:吉野⻯平

原作:津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)
9月17日よりテアトル新宿ほか全国公開中
公式サイト

【Interview】Vol.27 「渦に呑まれないように、常に自分を信じられるようにしておきたい」葵揚の生きる指針

Photo:尾藤能暢
Styling:矢羽々さゆり
Text:西森路代
Edit:斎藤岬

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