みのミュージック注目アーティスト vol.02 日本の音楽ファンに“命題”を突きつける「民謡クルセイダーズ」

文:照沼健太
2021.11.30

音楽紹介を行う人気YouTubeチャンネル「みのミュージック」を運営するYouTuberであり、新宿歌舞伎町で会員制レコードBAR「烏龍倶楽部」を経営する「みの」さんに、今注目のアーティストを紹介してもらう新連載がスタート。今月のアーティストは、日本民謡とラテンリズムを融合させた音楽が日本だけでなく海外でも評判を呼んでいる「民謡クルセイダーズ」です。

日本の民謡とワールドミュージックが融合

— みのさんが民謡クルセイダーズを聴いたきっかけを教えてください。

雑誌の「オールタイム邦楽ベストアルバム」的な企画で、民謡クルセイダーズの『ECHOES OF JAPAN』が上位にランクインしていたんです。それを見て「2010年代のアルバムがこんな上位に来ることある?」とびっくりして聴いてみました。

— 聴いてみてどう感じましたか?

「民謡ってこんなにかっこいいんだ!」と驚きましたね。民謡は自分にとって全然知らない“フロンティア”的な領域だったので。日本の伝統的音楽を全然知らなかったことに対するショックも含めて、新しくてかっこいい音楽だと感じました。『ECHOES OF JAPAN』はここ数年で一番刺さったアルバムです。

— 日本の民謡と世界各地の音楽の組み合わせは、非常に新鮮でした。

めちゃくちゃおもしろい組み合わせですよね。でも、自分も民謡クルセイダーズを聴くまで知らなかったんですけど、民謡と他の音楽ジャンルを組み合わせるという試みは、戦前や戦後間もない頃からあって、東京キューバン・ボーイズというバンドがその代表格と言われています。民謡クルセイダーズは、彼らのリバイバルのような試みと言っていいのかもしれません。


MINYO CRUSADERS (民謡クルセイダーズ) – Tanko Bushi (炭坑節)

— 民謡のメロディーがリズミカルなサウンドと融合されていて、ビートが強調された音楽に親しんでいる現代人には非常に聴きやすいですよね。

民謡って、四拍子ではない非西洋的な譜割りがされていて、合いの手とか歌ごとの塊でみんなリズムを取っているんですよね。それがフックになっているのですが、民謡クルセイダーズはそうした割り切れない音楽を割り切って、馴染みのあるリズムにハメている。それがおもしろい化学反応を生んでいると思いますね。そしてワールドミュージック的要素の中に民謡成分があるからこそ、際立って聴こえてくる。民謡だけだと記号的に“民謡”と捉えて聴いてしまいそうなのですが、そうはならないんですよ。

— 「炭坑節」なんかは誰もが聴いたことのある曲だと思いますが、「こうなるのか」と驚かされますね。

もしかしたらこれが“答え”かも?

— 民謡クルセイダーズ入門としては、どの曲から聴くのがおすすめですか?

まずは「会津磐梯山」が入りやすい気がしますね。原曲の知名度も高いですし、めちゃくちゃ素敵なアレンジだと思います。


民謡クルセイダーズ【 Aizu Bandaisan / 会津磐梯山 】 Peter Barakan’s LIVE MAGIC!

— 民謡クルセイダーズはラテンだけでなく、レゲエ、クンビアなど、さまざまな音楽ジャンルを取り込んでいますよね。日本各地の民謡を通して、世界のいろんな音楽を知るきっかけにもなるバンドだと感じます。

これだけいろんなジャンルの要素を入れているのはすごいですよね。個人的には「おてもやん」が好きですね。かなり譜割りが独特な楽曲なのですが、それをレゲエに落とし込んでいるのがおもしろいです。

そして、アルバム最後の「相撲甚句」という曲はアカペラなんですけど、これがめちゃくちゃパワフルで、海外のライブでもかなり盛り上がるらしいんですよ。シンプルの極みなのに、すごい迫力があります。

— みのさんは民謡クルセイダーズをきっかけに民謡をディグし始めたのでしょうか?

そうなんですよ。急に掘り始めて、本とか色々読んでみたり、三味線を買いに行って「もう少し調べてから来てください」と門前払いを食らったりもしました(笑)。

— えーっ、そんなこともあるんですね。

そうなんですよ(笑)。あと、これは言っておきたいのですが、自分が民謡クルセイダーズについて一番衝撃を受けたのは、ライブなんです。コロナ禍ということもあってYouTubeとかでしか観られていないのですが、盛り上がりが本当にすごい。

日本の、とくにアリーナのような大規模な会場で行われるロックのライブって、激しい曲ではみんなで手を振り上げたり、ゆったりした曲では手を仰いだりしますよね。

— みんなで同じ動きをしがちですよね。

正直、あれには“借り物の服を着ている”ようなぎこちなさを感じて、心の中でずっとひっかかっていたんですよ。でも、民謡クルセイダーズのライブの場合、基本は民謡だからみんな踊り方が染み付いているんですよ。誰も人の目を気にせず、盆踊りがもっと熱狂的になったような感じで、もうどこにも無理なく自然と盛り上がっている感じ。そこがめちゃくちゃ新しく感じたし「これが答えなのかも」ってちょっと思いましたね。


民謡クルセイダーズ【 Hohai Bushi / ホーハイ節 】 Peter Barakan’s LIVE MAGIC!

— 日本で暮らしている人には、問答無用で染み付いている音楽である、と。

そうですよね、完全に。あとはこの前『Live at Le Guess Who?』というライブアルバムが出たのですが、これもすごく良かった。最近のライブアルバムって、化粧し過ぎのものが多いじゃないですか。

— 修正しすぎってことですよね。

スタジオにライブ音源を持ち帰って、声を変えちゃったりとか。でも民謡クルセイダーズのライブ盤はそういうのをやらない、ギリギリの内容。だからこそ、往年の名ライブアルバムみたいな感じがあって良いんですよ。

— たしかに「普通のライブ盤ならここは修正するだろうな」と感じる瞬間がいくつかありました。

彼らはプロフェッショナルだから「民謡で補正なんて野暮」ってわかってるんですよね。そういう“‘一発勝負”の緊張感もあれば、海外のオーディエンスを相手にしているライブだから、徐々にみんなが民謡の良さに気づいて熱狂していく一種のドキュメンタリーみたいな趣もある。すごく良いアルバムだと思います。

日本の音楽リスナーに“命題”を突きつけるバンド

— 民謡クルセイダーズは今後どんな存在になっていくと思いますか?

このアルバムは“不朽の名作”とされる気がします。民謡クルセイダーズの音楽性的に、メインストリームで大ヒットを飛ばすのは難しいかもしれないんですけど、だんだん評判が広まって“聴かないといけない名盤”と言われるようになると思いますよ。

いずれにせよ、民謡クルセイダーズは日本の音楽リスナーに命題を突きつけている感じはあると思いますね。「ポップスの100年ほどの歴史の中で、僕らこういう考え方でよかったの?」みたいな。

— 日本のポップミュージックは、西洋、おもにアメリカとイギリスの音楽を元ネタとしてそれをアレンジしてきた歴史を持つ、という解釈があります。

自分は日本のポップス史がそうした極端な西洋崇拝だったとは思いません。しかし、ひとつ確かなのは明治維新後に選定した文部省唱歌。採用されたのがほとんど海外の民謡で、日本民謡を締め出してしまった。「会津磐梯山」を習わず、スコットランド民謡である「蛍の光」をなぜか歌う。こういった急進的な改革は、日本人の音楽観に爪痕を残していると言えます。

まあ、明治は日本をむりやり西洋化しようという時代だったのもありますけど、そういう歴史の下に埋まってしまっていた音楽を「今、取り戻そう」みたいな感じがすごくありますね。

— 近年、日本のポップスに限らず、アメリカ映画やドラマなどでも「歴史を見直そう」的な流れがありますよね。日本のポップス史もはっぴいえんどを頂点として語られがちでしたが、最近は「はっぴいえんど史観」なんて言葉がよく聞かれ、相対化の波を感じます。

いろんな見方がありますからね。はっぴいえんど中心で捉える歴史観も説得力はありますが、いずれにせよ民謡については「みんな軽視しすぎていたのではないか?」と思いますね。実際、それは自分が民謡クルセイダーズのアルバムを聴いて身をもって感じたことです。


はっぴいえんど入門!いまさら聞けない疑問に答えます

— 1950年代にアメリカで生まれた初期ロックンロールには、アメリカやメキシコの民謡をアレンジした楽曲があったのを思い出しました。

日本は、海外の音楽を取り入れる際も、現地のルーツミュージックに目を向けず、ポップスとかロックなど“ルーツから進化した先にあるもの”だけを取り入れてしまいがちだったと思います。

岡本太郎も言っていたのですが、日本はえぐみのある状態から文化を消費するのではなく、上っ面だけを、まんじゅうの餡だけを食べるかのような文化の取り入れ方をしてきてしまっていたと思います。ちなみに、岡本太郎は「奈良時代からそうだった」と言っているんですけどね(笑)。「中国から取り入れた文化は、貴族文化だけだった」って。まあ、そういうノリでやってきたから、ルーツミュージックを軽視したところはあるかもしれませんね。

日本の民謡が、海外の音楽ファンに受け入れられる理由

— 民謡クルセイダーズはどんな人におすすめですか?

いや、これは全日本人に可能性がある音楽だと思いますよ。もう“染み付いている音楽”だと思うし。だって、夏になるとアニメとかもエンディングが音頭になったりするじゃないですか。みんなお祭りにも行っていたと思うし、おじいちゃんが歌っていたとかもあるかもしれない。そこらで聴いてきた音楽なんだけど、真面目に聴いてきた人は少ないと思うから、誰にでもおすすめです。

— そういえば、アメリカのパンクレジェンドであるイギー・ポップも、海外のラジオで民謡クルセイダーズをかけたそうですね。

「会津磐梯山」をかけたみたいですよね。『ゴジラ』の音楽で知られる作曲家・伊福部昭さんの有名な言葉に「芸術はその民族の特殊性を通過して、共通の人間性に到達しなくてはならない」というものがあるのですが、まさにそういうことだと思いますね。アメリカの黒人が生んだブルースが日本人の心を動かすことがあるように、日本の民謡も民族の特殊性から出発しているからこそ、人類の共通性を逆に内包しているのだと思います。

— 最後に民謡クルセイダーズの「ここに注目して聴いてほしい」というポイントがあれば教えてください。

自分の中にある“民謡観”の変化を見つめてほしいですね。意識はなくてもみんな民謡に対するイメージは持っているはず。それが民謡クルセイダーズを聴くことで変化していくと思うので、ぜひそれを感じて欲しいですね。実際、僕はすごく変わりました。

民謡クルセイダーズ リーダー田中克海さんからのコメント

元々みのさんのファンだったので、プッシュしてくれていることが嬉しいです!実際にお会いした際に、日本の音楽や文化に対して同じ意見を持っていることが分かりました。この前も日本独自の音楽文化としての「飲み屋でのコール」について盛り上がったところで、みのさんの音楽評論の分野はもとより、音楽活動も新しいアウトプットが始まっていて本当に刺激的です。日本が元々持ち合わせている色々なアーティストが同時多発的に行う、それぞれの立ち位置からのアプローチが時代の空気になって新しいムーブメントが形作られている気配が感じられて嬉しいです。

今後は無限に存在しているはずの、まだ聴いたことのない民謡に出会い続けたいです。コロナで移動して人に会いに行くことが難しくなりましたが、各地域の民謡プレイヤーと出会うことも重要です。海外でも“民謡”が、新しいワールドミュージック“MINYO”として認知される様になればいいなと思っています。

最新作『Live at Le Guess Who?』は2019年に行ったヨーロッパツアー中、オランダはユトレヒトのフェス、「Live at Le Guess Who?」の会場に詰めかけたミュージックラヴァーたちの熱気が伝わってくる臨場感満点のLIVEアルバムです。世界の様々なリズムでアレンジされた日本民謡を、エキゾチックな未知の音楽として初めて体感しているであろうリアクションに、民謡の可能性を感じたツアーでした。「炭坑節/Tanko Bushi」での盆踊りをオーディエンスにレクチャーするシーンなど、見様見真似で思い思いに踊り出すお客さんをステージから眺めるのがツアー中の毎回楽しみの一つで、音楽を楽しむことに前向きなバイブスに毎回勇気をもらっていました。また海外プロダクションならではの臨場感あふれる音源のMIX具合も最高なので、ぜひチェックしてほしいです。

民謡クルセイダーズ

かつて戦後間もない頃、偉大なる先達…東京キューバンボーイズやノーチェクバーナが大志を抱き試みた日本民謡とラテンリズムの融合を、21世紀再び再生させる「民謡クルセイダーズ」。 東京西部、横田基地のある街、福生在住で米軍ハウス「バナナハウス」主のギタリスト田中克海が、モノホンの民謡歌手フレディ塚本と近所の某酒場で意気投合したことをきっかけに、2012年福生周辺の辺境音楽好きが集まり結成。 70年代以降には福生でよく見られたハウスセッションを続けながら現在に至る。

2015年 7吋シングル「串本節」限定発売。2016年「バナナハウス」でライブレコーディングされたオフィシャルブートレグDEMO録音CD-R「民謡しなけりゃ意味ないね ! ! It Don’t MinYo A Thing ( If It Ain’t Got That Bu – shi ) 」を発売。 
2017年 Pvine Recordよりファーストアルバム「ECHOES OF JAPAN」発売。
2018年10吋シングル「炭坑節/with Clap! Clap! remix」発売。
2019年UK Mais Um Discosより「ECHOES OF JAPAN」発売。

みの

YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在33.3万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、今年5月には自身初となる書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。

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text&photo:照沼健太

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