【Interview】Vol.30「ドキュメンタリーを観ている感覚に近い」パンサー菅良太郎が語る『明日、私は誰かのカノジョ』と歌舞伎町

文:ナカニシキュウ
2022.01.14

人気お笑いトリオ・パンサーのブレーンとして業界内外から絶大な支持を得ている菅良太郎さん。大のマンガ好きとしても知られる彼が、近年とくにハマっている作品のひとつが、をのひなお『明日、私は誰かのカノジョ』(小学館)だ。作品への想いは熱く、作中に登場する“聖地”で撮影した写真をSNSで公開したり、登場キャラクターと同じデザインの洋服まで作ってしまうほど。作中にリアルな新宿・歌舞伎町が登場することでも話題になった『明日カノ』について、菅さんに作品の感想を語っていただいた。

歌舞伎町はバラのイメージ

— 菅さんにとって新宿や歌舞伎町はどんな街でしょうか?

どんな街…? なんだろうなあ……。

— ご出身は東京の練馬区なんですよね。

そうです。どちらかというと、練馬の人間にとっては池袋のほうが身近なんですよ。高校生くらいの頃は、もう20年くらい前になるんですけど、歌舞伎町にはちょっと怖いイメージがありましたね。「自分が遊びに行くにはまだ早い」みたいな(笑)。でも不思議な魅力があって……、なんだか香港の九龍城みたいなノリというか、なんとも言えない憧れは持っていましたね。

— たしかに当時の歌舞伎町は、ほかの街にはない一種異様な空気感があったと思います。

週末なんか、道端にバタバタ人が倒れてたもんなあ(笑)。その頃と比べると、今の歌舞伎町はとてもきれいになりましたよね。若い子もいっぱいいますし、だいぶ歩きやすい街になった。行政も力を入れているんだろうなと思います。

— とはいえ、当時の危険な香りに惹かれてもいたわけですよね。

そうですね。なので、逆に近付きすぎないようにしていました(笑)。歌舞伎町は、言ってみればバラみたいなイメージというか。

— 美しいけどトゲがある?

そう、人を惹きつける何かがある。今の僕は新宿区民ですし、やっぱり“新宿っ子”でありたいと思っています。こういう仕事をしていると「麻布とか六本木で遊ぶんでしょう?」と言われることも多いんですけど、それはまったくなくて。ずっと新宿にいますね。

— 新宿のどういうところがお好きなんですか?

なんだろうな……、これだけ雑多なイメージの街もないんじゃないですかね。どの世代、どの職業の人にも居場所がある。ほかの街には、なんとなく一定のムードがあるじゃないですか。渋谷は若者の街で、恵比寿はもう少し洗練されていて、麻布は大人が遊ぶ街とか。新宿はそういうイメージが一方向に固まらない気がしますね。そこが魅力なんじゃないかと思います。

リアルすぎる『明日カノ』の世界

— そんな菅さんは現在、マンガ配信アプリ「サイコミ」で連載中のマンガ『明日、私は誰かのカノジョ』にハマっておられるそうで。歌舞伎町を含む東京で暮らす女性のアンダーグラウンドな一面をリアルに描いている作品ですが、やはりそういう部分に惹かれて?

そうですね。やっぱり、そういう世界に興味があるんですよ。

(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

— そもそも、この作品とはどういうふうに出会ったんですか?

普段からマンガはよく読んでいるので、「サイコミ」アプリも以前から愛用してました。気になった作品は全部読むので、とくに誰かからオススメされたわけでもなく、その流れで見つけた感じですね。絵柄的には、どちらかというと女性が読むタイプのマンガなのかなというイメージが最初はあったんですけど、読み進めていったら「あれ? 絵のタッチとは裏腹に、意外と重めの話だぞ」というところからハマっていった感じです。

新宿東宝ビル横、萌が座っていた場所にて

— 具体的に「このシーンで心をつかまれた」というポイントはありますか?

本格的にハマったのは、第4章からですね。それこそ歌舞伎町の話です。

— 萌という女の子が主人公の章ですね。普通の大学生だった彼女が、とあるきっかけでホスト通いにのめり込んでいき、その資金を得るために……というストーリーです。

作中で萌が常連客として通っていた「TRAP’」っていう2丁目のバーは実在するお店で、もともと僕も行ってたんですよ。そこのママとも知り合いなんですけど、見た目は変えているもののマンガに出てきたんで「えっ?」と思って。萌がハマることになる「Club CRUISE」ってホストクラブも実際にあるお店ですし、作者のをのひなお先生がめちゃくちゃ取材されていることが伺えますよね。だからこそのリアルさがあるんだろうなと感じて、より引き込まれていきました。

— おっしゃる通り、一般の人があまり見たことのない世界をディテールの部分まで見せてくれるというリアルな描写がこの作品の重要なポイントのひとつだと思います。

その世界だけでしか使われていないような、知らない言葉もたくさん出てくるんですよ。それを1個1個検索して「こういう意味なんだ」と知ることができたり。それで余計にリアルさを感じていきましたね。

— 指名するホストを意味する「担当」や、いわゆる“ツケ”の意味で使われる「掛け」など、実際にその業界では常用されている言葉だそうですね。そういうワードをキャラクターたちが自然に発することによって、本当にその世界に存在しているように思えると。

そうそう。以前、それこそ「TRAP’」で飲んでいるときに突然びしょ濡れの女性が入ってきたことがあったんですよ。ゲリラ豪雨でも来たのかと思って「傘持ってきてねえぞ」と思ってたら、その子が「担当にシャンパンぶっかけられた」とか言い始めて(笑)。「担当」という言葉も知らなかったんで、その時点では言っている意味がわからなかったんですけど、よくよく聞いてみたら、ホストにハマっている女性でした。「今日、200万使ったのに」みたいな話もしてて、とんでもねえ世界だなと思いましたね。そういうのも実体験としてあったんで、『明日カノ』で描かれる世界が本当にリアルなものなんだということが肌感覚でも感じられたんだと思います。

— 作中でも、優愛が七星にお酒をぶっかけるシーンがありましたね。

それもマンガ的な表現というわけではなく、本当に似たようなことが行われているんでしょうね。

“共感”というより“感情移入”

— 多くの女性が“共感”を軸にこの作品にハマるのは想像できるんですが、菅さんがなぜここまでハマっているのかがイマイチ想像できなくて……。

ははは(笑)。たしかに「サイコミ」に投稿される読者コメントを見ても、ディテールの部分に共感している人が多いイメージはありますね。毎回コメント数も尋常じゃなく多いですし、それを1個1個読むのも楽しいです。「むちゃくちゃ細かい!」「をの先生の実体験なんじゃないか?」みたいな。たぶん、その世界ならではの“あるある”がふんだんに盛り込まれているんですよ。

— 菅さんは、このマンガを“共感”で読んでいますか?

僕の場合は、共感したい気持ちはありますけど、ちょっと違うかもしれないですね……。たとえば僕がホストだったら「うわー、こういうお客の子いるよな」と思えるかもしれないし、第5章に出てくるライバー業界なんかは本当にわからない世界すぎて、試しに同じアプリで自分でもライブ配信を始めてみたくらいで。まだ今のところまったく理解できていないですけど(笑)。そんなふうに、わからない世界にまで飛び込んでみようと思わせるだけのエネルギーを持つ作品であることは間違いないと思います。

— なるほど。

僕は芸人になる前にキャバクラで働いていたんで、そっちの世界はまだわかるんですよ。男性がキャバ嬢にハマる心理は想像できるし、せいぜい「お金持ってる自分を見せつけたい」くらいの感覚だと思うんで、それは理解できる。でも萌のようにホスト相手に本気で恋愛感情を持ってしまう心理に関しては、ちょっと理解できないというか。「なんでそんなにハマれるんだろう?」というところを知りたいのかもしれない。

— ある種のケーススタディみたいなものとして?

そうですね、そういう感じだと思います。めちゃくちゃ印象に残っているシーンがあるんですけど、萌が最初にホストクラブに連れて行かれたとき、「どうしよう、全然楽しくないんだけど…」って言うんですよ。第一印象がそれだったのに、「そこから、なんでハマるん?」って思うじゃないですか。その心境の変化がどう起こっていくのかを事細かに見せていただいた、というところですかね。

(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

— 個人的な感想なんですけど、萌の行動って「自分の置かれている状況を少しだけ冷静になって俯瞰で見たら、たぶんその選択はしないよね」というものばかりに見えるんです。「普通はしない選択をし続けたらどうなるのか」という、ある種の“実験”を見せてもらっている感覚と言いますか。

うんうん、それを追体験させてくれているのかもしれない。だから“共感”というより、“感情移入”なんでしょうね。「わかるわかる、あるよね」ではなく、「ここらへんでやめといたほうがいいよ!」と言ってあげたい、みたいな(笑)。そういう意味では、ドキュメンタリーを観ている感覚に近いんでしょうね。ものすごく詳細に取材をしているから描ける作品だと思います。僕らがコントを作るときは取材なんて一切したことないんで(笑)、本当にすごいなと思います。リスペクトしかないですね。

萌と楓の思い出の場所 ”花園神社” にて

ちょっとお笑いでも観てみたら?

— 『明日カノ』で描かれる歌舞伎町について何か思うところはありますか?

描かれている場所はほとんど実際にある場所なんですよね。僕、ほぼ行きましたもん。聖地巡礼じゃないですけど、「CRUISE」にも目の前までは行きましたし。さすがに店内には入れなかったですけど、写真だけ撮りに(笑)。萌が楓を呼び出した花園神社も吉本興業のすぐ横ですし、なじみのある場所がすごく細かく描かれているところがむちゃくちゃ好きですね。

— “新宿っ子”の菅さんから見ても、この作品での歌舞伎町の描かれ方に不満はない?

不満はマジでないです。これが事実だし……、でも、これだけが歌舞伎町のすべてではないですけどね。もしかしたら、をの先生はこれでもちょっとマイルドに描いてるんじゃないかな。めちゃくちゃ取材をされている方なので、「これはさすがに描けないな」というようなえげつないエピソードとかも聞いているんじゃないかと思うんですよ。……あ、ひとつ思ったのは、優愛の住んでいる部屋がちょっときれいすぎるかなと(笑)。

— なるほど(笑)。ああいう子にしては部屋が片付きすぎている?

「もうちょっと部屋が汚かったらリアルだな」と、友達とも話してました。ああいうタイプの子って、実際いますよね。歌舞伎町を歩いているとたくさん見かける。たぶん、ほかに行き場がないんだろうなと思うんですよ。それこそ優愛のように相談できる人がいなかったり、視野が狭くなっちゃってる子もいると思うんで、そういう子たちには「ちょっとお笑いでも観てみたら?」と言ってあげたいですね。

— 「パンサーのコントを観たら幸せになれるよ」と?

いやいや(笑)。劇場とかで、生でお笑いを観てみるのもいいかもしれないよって。新宿には「ルミネtheよしもと」を始め、劇場もたくさんありますからね。

菅良太郎(かんりょうたろう)/お笑い芸人

1982年4月7日東京都練馬区出身。NSC9期生。2008年に尾形貴弘、向井慧と共にお笑いトリオ「パンサー」を結成。現在、NTV「有吉の壁」、TBS「王様のブランチ」などに出演、「TV LIFE」(ONE PUBLISHING)、「ふたまん+」(双葉社)でコラムを連載と多方面で活躍中。

『明日、私は誰かのカノジョ』をのひなお(小学館)

「彼女代行」「パパ活」「整形」「ホスト」など、現代を生きる女子を取り巻くリアルが細かく描き出され、多くの読者の共感を得る話題作。単行本は最新9巻が発売中。マンガアプリ「サイコミ」にて好評連載中。
(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

【Interview】Vol.30「ドキュメンタリーを観ている感覚に近い」パンサー菅良太郎が語る『明日、私は誰かのカノジョ』と歌舞伎町

text:ナカニシキュウ
photo:落合由夏

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