「HELLO KABUKICHO」Vol.2 たなか 「勝手に生まれて、壊して、再生する 歌舞伎町はインターネット的」

文_佐々木ののか
2020.03.06

歌舞伎町のさまざまなエンタメを味わい尽くすコミュニティサロン「HELLO KABUKICHO」によるイベント。第一弾企画には、いとうせいこうさんと映画監督・廣木隆一さんをお迎えし、「歌舞伎町とわたし」をテーマにざっくばらんにトークしていただきました。

第一弾企画の様子はこちら

第二弾のトークゲストは、ぼくのりりっくのぼうよみを辞職した、たなかさん。普段のフィールドは渋谷だというたなかさんですが、2019年に歌舞伎町にあるホストクラブ「CLUB CLASSY」で働いてからは歌舞伎町の街や人が愛おしく感じられるようになったといいます。

そんなたなかさんをお招きしてのイベントプログラムは二部構成。第一部は「おわりとはじまり」をテーマにしたたなかさんによるトークを、第二部は「HELLO KABUKICHO」のサロンリーダーを務める杉山元茂氏、柴本新悟氏、手塚マキ氏、田島邦晃氏の4名を加えて「たなかさんから見た歌舞伎町」というテーマのトークセッションを行いました。

長きに渡って歌舞伎町に触れてきたサロンリーダーたちとたなかさんがどんな化学反応を起こすのか。たなかさんと歌舞伎町が重なる瞬間を目撃してください。

「ぼくりりを能動的に破壊して、その存在を愛せるようになった」

第一部のトークで主に語られたのは、ぼくりりの“没落”とその後について。2018年にぼくりりの“辞職”を突如発表し、4thアルバム『没落』とベストアルバム『人間』を同時にリリース。ラストライブ「葬式」後に輝かしい功績を葬り去り、「たなか」としての新しい生を歩み始めました。去る1月29日には、ぼくりりの“葬儀”から1年経ったことを記念して、web上で“1周忌”を執り行ったことも話題になったばかりです。

司会の草なぎ洋平氏から、今は亡きぼくりりについて質問が投げかけられると「自分が過去に描いた絵のように思っている」とたなかさんは話します。

「ぼくりりをやっていたときは僕自身だったんですけど、もうすっかり『たなか』になったなーっていうか。テレビでいきなり辞職宣言をしたり、ネット上で炎上したりといった“没落”行為をしたことで、区切りをしっかりつけられたと思っています」

過激な発言や不可解にも思える行動の数々……それらの“没落”行為は、ぼくりりを愛するために必要不可欠な行為だったといいます。

「ぼくりりっていうのは、ぬるっと生まれてしまった存在なんですよ。大きな目的を持たないままデビューすることになって、いわば柱のない状態で活動を続けていくにつれ、ひずみが大きくなっていって、ぼくりりという存在を愛せないなって思った時期もありました。だからこそ、ぼくりりを愛するために破壊したんです。破壊という行為自体が、大事な目的というか、大きな柱になるから」

今では自ら破壊したぼくりりという存在に愛着が持てるようになったと話すたなかさん。歌手業がメインの活動でなくなった今も、アニソンをカバーするライブの開催をするなど2012年にインターネット上で音楽を始めた当時のように、自分の好きな曲を好きにつくれる楽しさを噛みしめているそうです。

今後の活動について尋ねられると「やきいも屋」と即答して、司会の草なぎ氏が驚く場面も。すでに会社の登記も済ませ、具体的な構想を話すたなかさんに、杉山氏からは「歌舞伎町にある焼き芋屋は寒い日の夜に飲み会帰りの人がよく買っていますよ」とお役立ち情報の提供が。“やきいも屋たなか”が歌舞伎町にオープンする可能性もあるかもしれません。

「ホスト体験を通じて、歌舞伎町の一員になれた気がした」

第二部では、「HELLO KABUKICHO」のサロンリーダーを務め、歌舞伎町商店街振興組合のメンバーである杉山元茂氏、柴本新悟氏、手塚マキ氏、田島邦晃氏の4名が加わり、たなかさんと一緒に歌舞伎町について語り合いました。

左から田島邦晃氏、杉山元茂氏、柴本新悟氏、手塚マキ氏

最初に話題に上ったのは、たなかさんのホスト体験について。ホスト体験のきっかけを聞かれ、「飲み会で一条ヒカルさんというホストの方とたまたま会ったので」と飄々と答えたたなかさんに手塚氏がすかさず「偏見がないんでしょうね」とコメント。たなかさんも同意し、自身の行動にある核についてこう話してくれました。

「人が偏見を表明している様子を見るのが嫌なんです。知らず知らずのうちに持ってしまっているものが偏見なので、『偏見を持つのをやめよう』と言っても意味がないですよね。ホストクラブ含め、誤解されていそうなものの中に自分が飛び込むことで、偏見をなくすことに寄与できたらいいなという意味合いもありました」

ホスト体験を経て「歌舞伎町を歩く人の背景を知って街や人が愛おしく思えるようになり、街の一員になれたという実感もあった」といいます。

また、自身もホストクラブや飲食店を経営している手塚氏は、たなかさんのビジネス感度の高さや視野の広さについて「時代に合ったバランス感覚がある」と絶賛。音楽家でありながら、その枠の中だけに留まらないのは、こんな理由があるようです。

「自分で書いた歌詞を歌うだけでは、安全圏からものを言っているようでずるいと思っています。『立ち向かう』とか『戦う』といっても、説得力がないというか。だから、音楽という軸を持ちつつも、できるだけ自分のフィールドの外に出ていくようにはしたいなと思っているんですよね。特に、既存の枠組みをハッキングするような振る舞いは好きです」

「初期衝動で自由発生し、壊して再生していく」歌舞伎町は“インターネット”的

トークがだんだんと温まってきた頃、話題になったのは「歌舞伎町という街の成り立ち」について。杉山氏によれば、「当初の歌舞伎町は特色のない駅前の商店街の1つに過ぎなかった」といいます。それが昭和の高度成長時代を経て、色々なお店が増えて今のようなかたちになったのだそうです。これを受けて、田島氏から「歌舞伎町もたなかさんの『破壊』と同じようにスクラップアンドビルドを繰り返しているので、そういう意味で通じるものがある」という意見も述べられました。

また、「ホストクラブは元々、女性が社交ダンスの相手探しをする場だった」という話も飛び出し、「20年くらい前の先輩たちはみんな社交ダンスを踊れましたよ」と手塚氏。知らなかった歌舞伎町の新たな一面を知り、目を見開くように夢中で話を聞くお客さんもいました。

歌舞伎町について「色がドぎつくて、良い意味で猥雑とした雰囲気が好き」と話す、たなかさんに対し、手塚氏はこんな問いかけをしました。

「ある種初期衝動で“できあがってしまった”街という意味では、歌舞伎町とぼくりりは似ていますよね。それを壊して洗練された都市である“たなか”になったんじゃないのかなという風に見えているのですが、ご本人としてはどうなのでしょう」

手塚氏の問いかけを受け、たなかさんは自身を都市に見立てて、こう説明します。

「ぼくりりはもっと曖昧な都市計画でつくられてしまった都市という感じですね。洗練された都市と、歌舞伎町のように雑多な街のちょうど間にいてしまったのが良くなかった。だから、どちらかというと『たなか』のほうが歌舞伎町的だなと思っています」

加えて、たなかさんは歌舞伎町の「インターネット的」な部分も好きだといいます。

「インターネットってTwitterとかInstagramとかメルカリとか、それぞれの“島”があって、個々で自由発生的に独自のルールができあがっていくじゃないですか。歌舞伎町がインターネット的なのか、インターネットが歌舞伎町的なのかはわからないですけど、そういう混沌としたところも好きなのかもしれません」

「カッチリしすぎない余白が歌舞伎町らしさ」オフレコも飛び出した質問タイム

45分のトークもあっという間に終了し、参加者からの質問タイムに。トークの中で出た話題について「もう少し聞きたい」というテーマを参加者の方が紙に書いてあげる形式で質問を募ると、徐々に挙げる人が増え、最終的には参加者の半分にあたる20名ほどの方が挙手していました。

たなかさんの「やきいも屋」についての質問が多く、中でも「焼き芋をインターネットで売らないんですか?」といった質問は会場をドッと湧かせました。たなかさんのやきいも屋開業の話を受けて、自身も経営者であるサロンリーダーたちが前のめりにアドバイス。杉山氏は「“ちゃんとした感じ”じゃないほうが歌舞伎町ではウケるんじゃないかな」と話していました。わかりやすい店にしない、カッチリしすぎない。そうした余白が歌舞伎町らしさをつくっているのかもしれません。

また、歌舞伎町のフェス「CONNECT歌舞伎町」を主催する柴本新悟氏とのトークの中で出た話についての質問も挙がりました。柴本氏は元々DJとして国内外を飛び回り、その後紆余曲折を経て、歌舞伎町でお好み焼き屋「大阪家」を経営しています。音楽家としての肩書きを一度捨て、やきいも屋を始めようとするたなかさんと、柴本氏の間でなされた「ミュージシャンはなぜ飲食店を出すのか」という話を興味深く思った方がいたようです。柴本氏は「音楽と料理の1回性が似ている」と話していましたが、たなかさんは質問タイムで改めて「音楽のミキシングと料理は似ていると思った」と話してくれました。

「料理は楽器の音を並べた後に音を混ぜてバランスを整えるMIX作業に似ていると感じました。MIX作業は、女性で言うところの化粧と同じくらい大事な作業なんです。材料が出揃って、どう調理するかが似ていると思うんですよね。だからやきいも屋を始めるというわけではないですが、音楽と料理の共通点は確かにあるかもしれません」

それ以外にも「ぼくりりの曲を歌うときは“セルフカバー”になるんですか?“カバー”になるんですか?」といった深い質問や、今後の活動についての質問など、参加者の方が積極的に手を挙げているのが印象的でした。ちなみに、たなかさんから「これはまだ言わないようにしようと思っていたんですけど」と未発表の打ち出しについての話されたシーンも。何が話されたかはもちろん、会場に来ていた人だけの秘密です。

会を終えた感想として、たなかさんは「トークだけをすることはあまりないので、純粋にすごく楽しかったです」と話し、「HELLO KABUKICHO」のサロンリーダーたちも「歌舞伎町について新鮮な視点をもらえた」「たなかさんの今後が楽しみ」「僕らおじさんもたなかさんのように誠実でありたい」「たなかさんになりたい」と絶賛。参加者を含め、会場全体が楽しい時間を過ごしたようでした。

その後、全員で集合写真を撮った後は、たなかさんの希望で懇親会を開催。「誰も残ってくれなかったらどうしよう」と壇上にて少々不安そうにしたのもつかの間、ほぼ全員が参加希望の挙手をし、ほっとしたように笑顔になったたなかさんの表情が印象的でした。

参加者が待つ卓を5分ずつたなかさんが回っていく形式で行われた懇親会。あまりの至近距離で緊張した面持ちだった参加者たちもたなかさんのフランクさで徐々に打ち解け、写真を撮ったり笑顔で話したりと、思い出深い夜を過ごしたようです。

「HELLO KABUKICHO」では、トークイベントをはじめ、これからもさまざまな企画が開催予定。ぜひ、今後も活動をチェックしてみてください!

HELLO KABUKICHOはこちら

参加者の皆さま、ありがとうございました!

イベント詳細

イベント名:「HELLO KABUKICHO Vol.2 〜おわりとはじまり〜」
ゲスト:たなか(前職:ぼくのりりっくのぼうよみ)
対談者:杉山元茂、柴本新悟、手塚マキ、田島邦晃
司会:草彅洋平(BAKERU)
日時:2020年2月15日(土)開場:16:00 開演:16:30
※18:30終了予定
場所:AWAKE
〒160-0021
東京都新宿区歌舞伎町1-2-7 歌舞伎町ダイカンプラザ星座館 B1F

チケット料金:2,000円+500円(ワンドリンク)

本イベントは終了いたしました

たなか

1998年、神奈川県生まれ。2012年から「ぼくのりりっくのぼうよみ」として活動し、当時高校3年生だった2015年にメジャー・デビュー。言葉を縦横無尽に操る文学性の高いリリックは多方面から注目を集めた。2018年、ぼくのりりっくのぼうよみを「辞職」することを宣言し、2019年に活動を終了。
その後は「たなか」名義でインターネット・タレントとして活動を続ける。現在は音楽活動のほか、俳優やモデル業など、ジャンルを問わず幅広く活躍中。趣味はボルダリング。

「HELLO KABUKICHO」Vol.2 たなか 「勝手に生まれて、壊して、再生する 歌舞伎町はインターネット的」

text:佐々木ののか
photo:金本凜太朗

この記事をシェア

OTHER ARTICLE他の記事